朝7時、列車はバナラシについた。終着駅ということで、ぞろぞろとインド人が電車から出ていく。今日のバナラシは快晴だ。電車の中では午前6時前に日の出と共に目が覚めたが、車窓からはずっとインドの田舎の風景がつづいていた。子供たちが列車に向かって手を振り、遠くの方ではおばちゃんが作物を刈り取っていて、数えきれないほどのたくさんの牛がのびのびと暮らしている。そんな景色がずっと続いていた。素敵な国だ。

バナラシについて列車を降りるとすぐにリクシャーワーラーのおやじに声をかけられた。

「どこまでいくんだい?ガンガー?50ルピーだよ」

「10ルピーで行ってくれないかな?」「3人で10ルピー?まさか。40ルピーだな」

「10ルピーで行ってほしい。他を探す。」

「まてまて、じゃあ30ルピーでどうだ。一人10ルピーずつ。」

「うーん。わかった、じゃあ俺が10ルピーを払う。でも彼女らはレディーだから安くしてほしい。10ルピー、5ルピー、5ルピーで合計20ルピー。どう?」

「OK、ついてこい」

インドにいると、価格交渉が楽しくなってくる。

このおやじ、リクシャーをめちゃめちゃ飛ばす。インド16日間の中で一番早いリクシャーだったかもしれない。途中で「サプライズだ」といって、爆音で音楽を流し始めた。そして踊りながら運転している。このおやじ、ノリノリだ。

途中でリクシャーを止めて、「プラス10ルピーで俺のおすすめの宿まで連れていくけど、どうだ?」と言ってくる。「とりあえず歩いて散歩しながら宿探すから、まだいいよ。」と答えるも、「なんで?10ルピーじゃん。グッドプライスじゃないか。泊まるところ見つけるの大変だから案内してやる!大丈夫だ俺を信頼しろ、俺は日本に友達がいっぱいいる。これを見ろ。」

そう言って見せてきたのは彼の携帯の画面。映像が再生され、日本人の青年が出てきて、その隣におやじ。

日本人の青年が、語り始める。「このおじさんと一緒にバナラシを観光できて、とてもいい思い出になりました。このおじさんは信頼できる、いい人です。」

なるほど、この青年が言うのだから間違いな・・・いや、明らかに棒読みである。そしてこのおやじの表情。こいつ・・・危険過ぎる!(笑)日本人の男性も、おどおどしながら話しているようにも見受けられる。なるほど最近のインドの騙しの観光産業は、こういう手口も使うのか・・・なんて大袈裟に考えたりもしたけど、現場ではけっこう面白くて爆笑してしまった。逆にこのおやじ面白いんじゃないかということで、「じゃあ案内してくれ」と宿まで案内してもらうことになった。

ところが、案内してもらった宿は本当にベターないいところだった。日本人の宿泊客もいて、すれ違ったときに「ここ割といいっすよ」って言ってくれた。なんといってもゲストハウスのご主人の奥さんが、日本人の女性なのだ。部屋を見て価格を交渉して、3人1部屋、2泊でトータル1000ルピーにしてもらった。一人1泊180ルピー(360円)くらいの計算だ。まぁまぁ妥当な額だし、エアコンもあるし、景色もいい。そうしてバナラシでの宿は「SANDHYA GUEST HOUSE」に決まった。「地球の歩き方」にはまだ載っていないけど、良質なゲストハウス。(たぶん来年以降の改訂版で載るであろう)スタッフも親切で面白いし、余計なチップを要求してきたりもしない。なにより日本人の奥さんが親切で、色々情報を教えてもらって助かった。たぶんリクシャーのおやじにはゲストハウスから幾らかの紹介料が払われるのであろう、この笑顔。結局このおやじは、いいオヤジだった。バナラシではこのオヤジを探すと楽しくなるかも知れない。

ゲストハウスは6階建てで、屋上にテラスのあるレストランがある。まだ朝9時だったから、ここで朝食をとることに。しばらくして日本人の男性2人がやってきた。仕事の休暇で来ている大ちゃんさんと、世界一周中の学さん。

ここに置いてあるハチミツは本当に美味しかった。

テラスは景色がよかった。一緒に朝ごはんを食べながら、旅の情報交換をする。彼らはお互い一人旅で、ここで出会ったそうだ。ガンジス川にも沐浴したらしい。いろいろ写真を見せてもらった。旅先での出会いは、本当に素敵な出会いになる。

食事を済ませて部屋で洗濯を済ませ、しばしの休憩をとる。部屋でゆっくりしていると、いつの間にかうとうとと眠ってしまい、15時近くまで昼寝をしていた。いい気持ちだ。

それからレストランi:daに向かう。

i:daは「地球の歩き方」にも載っている、日本人オーナー杉本さんのレストラン。杉本さんはインド人女性と結婚した方で、彼の著書『インドで「暮らす、働く、結婚する」』という本が今年2月に発売されたばかり。宿においてあったので少し読んでみたけど、けっこう売れているらしい。杉本さんにチラっと会って挨拶することもできた。

ここでは「TORITAMADON」を食べた。親子丼みたいなテイスト。久しぶりの日本の味。少し高かったけど(飲み物いれると200ルピー=400円くらい)美味しくて、お店の雰囲気もよかった。ただ停電してて空調がなく、すごく暑かったけど。インドではしばしば、宿泊費よりも食費のほうが上回ってしまうことがある。総じて言えば我々の旅のスタンスとしては、交通費や宿泊費は10ルピー単位でギリギリまで値切って抑えようとするが、食事に関してはまったく気にしないというのが言えただろう。まったく、日本人というものは食べることに関してはわがままなのである。

それからいよいよ母なる河、ガンジス川に向かう。i:daやゲストハウスから川岸まで直通で歩いて5分ほどで、僕がよく足を運ぶ事になったケダールガートまでは、歩いて15分くらいだ。

川沿いで野球をして遊ぶ子供たち(たまにボールがガンジス川に落ちて、それを取りにいく姿もあった)や、のんびりと日向ぼっこしている犬、散歩しているおじいさん、そしてガートで沐浴する人たち。ボートに乗って河を渡っている観光客が見られた。

「ボート乗りたいよね」ということを話していると、近くのおじさんが「ボート乗る?」って話しかけてくれた。僕らが日本人だと分かると、「ちょっと待って」と言って、もう一人の青年を連れてきた。

「初めまして、ボートに乗りたいんですか?一人1時間なら、150ルピーです。」

ここで、パプーさんと出会った。すごく上手な日本語を話す、彼。我々はボートに乗せてもらうことに。

「めっちゃ日本語うまいですね」と言うと、「ううん、ぜんぜんうまくないですよ。」と謙遜してくる。インド人が謙遜するのを初めて目撃した瞬間であった。

「大阪ですか?」「いえ東京です。正確には横浜です。」「ああ、横浜なんですね」

見た目はインド人の青年だけど、もう100%日本語が通じる。すごい。

彼の名前はパプー(PAPUU)

「ジャパニーズネームは、きょうたろうです。鶴田真由につけてもらいました。」

「え、鶴田真由って、あの女優の鶴田真由?」

「うん。長澤まさみも来たとき、写真撮りました。」

「え?」

「ガンジス川でバタラフライ」

なんとパプーは、長澤まさみや塚本高史、そして志田未来ちゃんが番組でインドロケを行ったときに、現地のコーディネートを行っている一人だった!なるほどー。日本語がうまいのも頷ける。

それからボートに乗っている間、パプーといろんな話をした。ガンジス川やシヴァ神について、いろいろなことを教えてもらった。ガートそれぞれの役割や、インドの歴史。彼を知っている人はたぶん他にもたくさんいるとおもう。僕らみたいに旅人として出会った日本人は200人以上いるとのこと。ケダールガート付近にいつもいるということなので、興味がある人はパプーを尋ねてみると、そのへんでは有名な人だから、すぐに見つかると思う!


ボートこぎもチャレンジ

パプーに、インディアンネームをつけてもらった。

マナミは「レーカ」、アイは「ジョーティ」、そして俺は「ラジャ」
ラジャは王様って意味らしい。大袈裟すぎる(笑)

母なる河、ガンガー。人々はこの河で沐浴をし、洗濯をし、歯を磨く。そして、死者の遺灰を流す。火葬できない子供や自殺した人の遺体は、そのまま河に流される。この河に還ることで、輪廻から脱する事ができるという。

陽が落ちる頃、ボートから10メートルほど離れたところをオレンジの布に囲まれた物体が、ゆらゆらと流されていた。「あれがボディーだよ」と、パプーは説明してくれた。オレンジの布が女性で、白が男性らしい。そう、ここはインドなのだ。心の普段使わない部分が震えて、不思議な感覚に陥った。

「祈りをこめて河に流すんだ。」

僕らはひとりひとり、祈りをこめて河に流した。が、すぐにそれは撃沈した。それが現実である。

ガンガーの祈り。インドの聖地、ベナレス。ヒンディー教徒は、人生で一度はこの地に訪れようとするという。ガンジス川は確かに汚いかもしれない。でも、その夜に見たガンジスの祈りは、本当に美しかった。

2010年インド・ラダックの旅の記事一覧