grey 良い話し手になるための6つのエッセンス
IVSでの優勝時の写真 (出典:Techwave)

今年は『PRAY FOR JAPAN』の出版やLabitの創業もあって、新聞や雑誌の取材は月に2〜3回、講演やスピーチも20回近く引き受ける機会がありました。自分でサービスを作り始めてから、投資家向けや、同世代起業家とのピッチ大会でプレゼンすることも急激に増えました。僕は、もともと人前で話すのが得意ではなく、ごく平均的に緊張するタイプの人間です。人見知りで、自分の声や振る舞いにも自信がなく、電話や写真に撮られることが本当に苦手でした。上京して、社会が広がるにつれて「人前でもっと上手に話したい」と思うようになります。この記事は、僕が講演やスタートアップにおけるプレゼン(ピッチトーク)を重ねるなかで、気づいたことを備忘録としてまとめたいと思います。近況を交えて。

1.緊張しないための唯一の方法

12月初旬、京都のウエスティン都ホテルで開催された「Infinity Ventures Summit 2011 Fall」というIT業界のトップ・幹部クラスが集うカンファレンスが開催され、その中の「Launch Pad」というスタートアップの新サービスのプレゼン大会に出場しました。

グリーの田中さん、GMOの熊谷さん、はてなの近藤さん、ミクシィの笠原さんなどが常連スピーカーの、歴史あるカンファレンスです。20歳の僕は、Launch Padの史上最年少エントリー。予備審査を含め25社の中で、プレゼンとプロダクトを競いあいます。試行錯誤して作ってきたものを大人数の前で発表できる、スタートアップの中では集大成的なこのイベント。そこでLabitもプレゼンをし、史上最年少で優勝することができました。(参考:日経新聞 IVSのアプリプレゼン大会、優勝は20歳大学生の「すごい時間割」)

プレゼンはパフォーマンスであって、演劇や音楽と一緒だとよく言われます。今回のように6分間の限られた時間でプレゼンテーションをする場合、それは音楽におけるライブ、武道における「型」とまったく同じものです。緊張しないための唯一の方法、それは練習しかありません。僕のチームは、IVS初日のレセプションパーティ(とても豪華な食事が振舞われていました)を30分で切り上げて、ホテルの部屋に戻り、相棒と2人で夜遅くまで練習をして当日に望みました。朝も夜明け前から準備を始めて、10時の出演までに入念に準備をしました。ほとんど眠れなかったけど、それでもギリギリまで練習しなかったら優勝は無かったなと思えます。

緊張しないための第一歩は、繰り返し練習をして、入念に準備をすることから始まります。僕は大きなプレゼンやイベント企画に望むとき、最低でも1ヶ月前から、頭の中に「箱」を用意して、ときどきその思考の箱に入ってイメージトレーニングをしています。そのうえで、最も大切なことは実際的な練習です。友達でも家族でもいいから、人物を前に何度も練習をして、フィードバックを受けて改善していく。

うまくやる方法は、本を読むことでもなく、きれいにスライドを作ることでもなく、何度も練習を重ねることでした。

2.自分自身が楽しくやらなければいけない

僕は人前で話すとき(ときどき緊張して息が詰まる様なときもありますが、)多くは楽しんでやっている自分がいることに気がつきます。自分自身が多くの人に見られているという状況 ― 緊張とは少し違った自分の心理状況を楽しめるかどうかは、とても重要です。

自分自身が楽しくやる方法は、自分が好きなことを話すことに尽きると思います。自分が作ったプロダクトの話、知ってほしいストーリー、自慢したいとっておきの話であれば本来、話し手として十分に楽しめるはずです。プレゼンは「何を知ってもらいたいか?」という問いから始まり、聞き手に「何を残せたか」で終わります。IVSのプレゼンでは、サービスのことを知ってほしくて、何のためにやっているか、そして誰がやっていて、どういうドラマがあったのかを知ってもらいたいというところから、骨組が決まりました。

実際今回は、僕は心の底から楽しむことができました。IVSという空気感が自分に合うというのも大きかったと思います。僕はこの業界が大好きで、大抵の場合、フランクで、カジュアルで、フラットな人間関係です。IVSというイベントは、その最たる空間でした。とはいえ、年上の一流の経営者・幹部550人以上の前で話をするというのは、めったにない機会です。彼らの前で話せるということは、僕にとって最高に楽しい機会でした。僕が会場の550人のなかで最年少ということは、未熟でもあるけどアドバンテージでもありました。聞き手が抱いている平均的期待値「20歳の若者なんて、こんなもんだろう」の一線を超えられると、そこに感動が生まれるのかもしれません。そういった感動を作るのが、本質的な僕の人生のテーマでもあります。

3.ユーモアがあるといい

IVSのプレゼンで、最後まで悩んでいたことが一つありました。プレゼンの冒頭に、ユーモアのあるネタを投下するかどうか。当然スベるリスクもかなりあったわけで、壇上で機材セッティングをしている直前の5分間でさえ、そのスライドを削除するかどうか悩んでいました。結果的にネタを入れてみると、想像以上に笑いが起きて、うまくいった。そのあと僕はずっと話しやすかったし、話すのが楽しかった。プレゼンテーションにおいては、第一印象はとても重要です。初対面の女の子と話すときと同じように。

他の方々のプレゼンを見ていても、ユーモアを交えたプレゼンは、その審査基準がどうであれ、観客は大きな拍手を捧げていました。楽しませてくれてありがとうと、拍手をする。最後に残るものは何だろう?と考えたとき、結局のところ話し手の個性やキャラクターなのかな、と思った。笑うことは、空間に一体感を持たせられる。多かれ少なかれ、その空気感は人々の印象に残ります。僕は性格上、あんまり熱心なユーモアは提供できないけど、クスっと笑わせられる何かがあれば、それは積極的に活用しようと思っています。

慶應大学に入ったすぐの頃、村井純先生の授業で発表する機会がありました。僕のまじめなプレゼンに対して、村井さんに言われた一言は「内容はともかく、ユーモアが無いんだよ。こういう時は、笑わせたもの勝ちなんだからさ」でした。ナチュラルにそう言い放たれたことはとても印象的で、以来いつも意識をするようにしています。彼のユーモアのセンスは素敵だからね。


4.何ができるかじゃなくて、何が楽しいか? 機能よりも、体験を。

主にピッチトークに言えることですが、「何ができるか」ではなくて、「何が楽しいか?」「何がユーザーのライフスタイルを変えるのか?」そういったテーマを骨格としたプレゼンテーションのほうが聴きやすいと思っています。機能なんてウェブサイトを読めばわかるだろうし、そもそもうまくデザインされたものであれば、機能について説明を受けなくても使っているうちにピンとくるはず。

そうじゃなくて「何が楽しくなるか」「これが実現したときに世の中がどう変わるのか?」という、もうちょっと踏み込んだ展開にウエイトを置いたほうがいいかなと思います。時間は限られているのだから。僕は普段から、プロダクトを作る人は魔法使いや、ドラえもんだと思っています。無数にあるひみつ道具は、それぞれに違ったオリジナルの機能や性質を持っているけど、ほとんどがドラえもん自身のワンセンテンスで説明されている。僕ら視聴者は、ひみつ道具の機能性が面白いからじゃなくて、その道具を使うと、どんなふうにワクワクできるかというストーリーに関心があるから見ちゃうんですよね。プレゼンを聞いている側は、彼らのビジョンは何なのか?どこを目指しているのか?私の人生にはどんな影響があるのか?ということに興味がある。「どこでもドア」の説明を6分間も聞きたいんじゃない。

重要なことは、自社製品の説明を受けるために、みんなわざわざこの場に来ているわけではない、ということです。それを理解することから、僕らのプレゼンの準備は始まりました。聴き手に対して有益なものを提供しようと真剣に考えたとき、機能の説明が軸となったプレゼンテーションは適切ではないということに気づくときがあります。プロダクトを通して未来を見せて、感動させ、設計思想などの共通するヒントを提供すること、なによりも聴き手の想像力を引き立たせることを目的とするべきです。結果として、それが一番いいプロダクトの発表になると僕は信じています。

5.本題から入ろう。スマートに、シンプルに。確信犯で。

 「何を話そうか実は決まっていないのですが」とか「あまり話すのは苦手ですが」とか無意味な前置きをしたり、聴衆に対して遠慮をしてしまっては、せっかくの貴重な時間がどんどん消費されていきます。状況にもよるけど、プロフィールも会社案内も多くの場合、必要ないと思っています。名前さえ分かれば、みんなググってくれる時代です。いきなり核心から入り、問題提起をして、それまで退屈だった場の流れを自分でコントロールするほうが魅力的です。「こいつ自己紹介もせずに、何を始めるつもりだ?」という好奇心を沸かせて、その後の舵取りがうまくいけば、自己紹介は必要ないかもしれません。自己紹介からしてしまうと、どうしても最初のインパクトに欠けてしまう。プレゼンそのものが自己紹介と割り切ったほうがいいかもしれません。興味を持ってもらえたら調べてくれるし、逆に言うと興味を持ってもらえなければ、どんなに丁寧な自己紹介をしようが忘れられるのだから。

12月15・16日には大阪の四天王寺中学・高校で、講演をする機会がありました。3月11日の夜のエピソード、prayforjapan.jpの立ち上げと本の出版の経緯、その反響、気づいたこと、そして僕の20年間の人生を振り返ってみて、少し年下の後輩に伝えたいことを話しました。

最初に、僕が17歳のときにインドを一人旅したときのエピソードを話しました。中学1年〜高校3年生まで2000人の前で話をしたのは、今まで一番多かったかもしれません。女子校なので、いろんな意味で緊張もありました。生徒のみなさんは多感な年頃で、様々な思いを巡らせながら聴いてもらえたかなと思います。「学校」という環境に対する息苦しい気持ちや、先生に対する反抗、将来への不安、彼女たちが抱いている悩みの多くは、僕自身の最近までの悩みでもありました。だからこそ、いま10代の皆さんに伝えたいメッセージはたくさんあって、その機会をもらえたことに僕は嬉しかったし、限られた時間でいろんなことを伝えたいと思うと、最初から本題から入る必要がありました。

6.「頭で考えないで、ハートでプレゼンするんだよ」

僕がもっとも重要だと思うことは、数字やパワーポイントに慣れてしまった大人よりも、ふつうの中学生や高校生のほうがよく理解してくれそうなシンプルなことです。難しいことを考えないで、気持ちを正直に伝えよう、ということ。

Launch Pad前夜のレセプションパーティで勝屋久さんからもらったわずか一言のアドバイスは、僕のスタンスを改めさせてくれて、プレゼンを最初から作り直すきっかけになりました。プレゼンを頭で考え始めたら、終わりだからね、と。気持ちが大事だよ、と。とにかく気持ちというものは包み隠さず聴き手に伝わるから、と。プロダクトを心から愛していて、その未来を信じているのなら、それをそのまま伝えればいいだけの話だから。

「頭で考えないで、ハートでプレゼンするんだよ」

とてもありふれた、それでも一番心に響き、そして勝屋さんが言うと説得力のあるアドバイスでした。

僕は子どもの頃から目立ちたがり屋で、家族や親戚からはスピーチが上手いねと言われて育ちました。大人数のまえで頻繁に話すようになったのは、高校のときに生徒会長になってからです。その就任のスピーチではひどい話をしてしまい、全校生徒(一部の親友を除く)を敵に回し、先生方から顰蹙を買ったのは今でもいい思い出です。そういうこともあって、あるとき自分を改めました。「”君は話がうまいね” と言われて褒められていたのは小学校時代までで、今の自分はスピーチが下手糞なんだ。今ならサッカー部の連中のほうが面白い話をするだろう。だから、練習するしかない。」

その後に迎えた、卒業式での送辞スピーチ。恩師に付き合ってもらって、原稿を50回くらい何度も書きなおして(当時からブログを毎日続けていたので文章を書くのは好きでした)、スピーチの練習はたぶん200回以上。1ヶ月前から放課後に教室に残って発声練習を行い、呼吸のタイミングまで全てシミュレーションしました。ほとんど暗唱できるレベルまで原稿も覚えてしまい、当日の状況も全てイメージトレーニング済み。準備は整ったから、本番でどれだけ想いを込めて話せるかという段階でした。

完璧な状況で臨んだ卒業式当日。結果、どうなったか?

すごいことが起きた。会場がしんとなった。僕の話を聴いて、泣いている人がいた。生徒会主任の先生からは「私の教員人生14年間で一番よかった」というコメントをもらった。そして、じわじわと卒業生の親御さんから「感動した」「ありがとう」という声が届くようになったのです。

卒業生よりも、その親御さんが感動して泣いていたことが、後になってわかりました。どうしてか? 送辞というのは「卒業生を送る言葉」だけど、実は僕のスピーチにはもう一つの隠しテーマがありました。それは「母親の気持ち」の代弁でした。ずっと子供の成長を見守ってきた母親の視点で、原稿を書いたのです。

僕の年は、毎年の流れを尊重しつつ、オリジナリティを加えて試行錯誤した結果、圧倒的と言えるくらいの保護者の方々の共感をもらえたのです。この件以降、僕に自信がついたことは言うまでもないです。狂ったように練習をすれば、結果は出るということがわかった瞬間でした。そして「共感」とは何か、その本質を垣間見ることができました。これは今の自分のあり方、ものづくりに関して、大きな影響を与えています。

『良い話し手になりたい』という強いモチベーション

プレゼンテーションに関して「何かお薦めの本はありますか?」と聞かれたら、まずデール・カーネギーの『話し方入門』を薦めています。この本は、僕が読んできたプレゼンテーションやスピーチを題材とした数ある書籍の中で、もっともバイブルとなっている一冊です。D.カーネギーといえば『人を動かす』ですが、スピーチについて書かれたこの本も隠れた名著です。古典的ですが本質を捉えていて、大きな講演の前には、必ずこの本を再読しているほどです。

本書の冒頭でも「良い話し手になるためには?」という問題提起から始まっており、このブログ記事も多かれ少なかれ影響を受けています。記事に共感をしてもらった方は、読んでもらって損はないかなと思います。

自分のことを振り返ってみると、これまでどうしようもなくアホみたいに失敗したプレゼンが半分くらいあって、なんとかなったけど完璧じゃなかったというのが4割、そのとき自分の力を完璧に発揮できたと思えるプレゼンは1割くらいです。おもいっきり滑ったこともあるし、緊張してしまってうまく伝えられなかったこともある。何事もそうだけど、大切なのは失敗をどう検証して次に活かすかって言うことかなと思います。恥ずかしい失敗は忘れたいけど、無かったことにしたら、また同じことを繰り返してしまうから。誰だって、最初から完璧じゃない。

僕の場合、人生を通して「語り手になりたい」という強い意志があります。それは子供時代に聴いたおばあちゃんの話のように、人生経験が豊かで、色んなことを語れる大人に憧れのようなものを感じているからかもしれません。たくさんの経験をすることで、失敗談も含めて、話のネタが広がっていく。アウトプットする瞬間が一番楽しいと悟ったときから、僕は新しいことにも貪欲にチャレンジしたいと思う性格になったのです。

そういう意味で、話し手の姿というのは、人生をどう生きているかということ、それ自体の反映なのかもしれません。

@mocchicc

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